もう一度
もう一度。
最近、そんな事を、最近、不意に思った。
目指した場所へ、もう一度行く事は出来ないのだろうか。
そんな事を、最近、ついつい考える。
その場所は、とても近くて遠くにあり、必死になって、掴もうとすると、スルリと其処から抜け落ちてしまう。
掴もうとした自分すら、無かった事にされてしまう。
何処かへ落ちてしまった、その事を拾おうと探し出すと、気が付けば闇の中にいる。
闇の中に居ることは、心地よく。
この場所で良いとも、思わせる。
でも、これでは駄目だと、また光を探す。
夜の世界で、灯火を探し出し、迷い込む虫たちのように。
光は遠くにあり、其処にはたどり着くことなど、自分には到底、無理だと、
身の丈を知り、自分の居場所を決める。
其処が自分の場所だと、自分自身を納得させる。
其処には日々があり、やはり、人達がそこに居て、日常がある。
努力も必要だけど、必要な練習。
それは、とても楽しくもあって。
初めてのことは、何時だって楽しいものだ。
柳川芳命さんの、其処から、どんなことがあろうとも
決して其処から逃げたりはしない音を聴いていると、心の奥が動かされる。
向き合う事を考える。向き合った後、心が静かに踊り出す。
kei-kの遠い何処かへ突き抜けて行く音を聴いていると、遠い場所へ連れて行ってくれる。はるか遠くの景色の中で、静かに心が狂いだす。
Meg Mazakiさんの音が響くと、彩りの事を考える。不可視だが、完全に不可視では無い色彩のことを考える。Pre-visualな、前視覚的な彩りを。
大江 愛と演奏するとき、勇み足の自分に気付いて、歩調をもう一度、合わせ、今いる場所を確かめる。自分も、他者も支えながら、一歩ずつ。
小林雅典さんの音を聴くと、弦を弾く自分が確かに其処に存在することを思い出させてくれる。いつも、僕が忘れがちな事を、彼の演奏に確かめる。
「もう一度、あの場所へ」
そんな事を最近、良く考える。
もちろんだけど、今の自分であの場所へ。
もう一度。
晴れた日に、道すがら、声をかけてくれた人がいた。
「今日も、忙しそうね。元気そうで何より。」
「今日は、天気が良いから。」
そんなふうに、答えた。